2020.3.25
斉藤健一さん(39歳)× トゥイーさん(26歳)
トゥイーさんはEPA介護福祉士候補者です。ベトナムから来ました。日本に来てから2か月半研修を受けました。その後、長野県塩尻市にある特別養護老人ホーム『グレイスフル塩尻』で働きはじめました。ここで働きはじめたのは約2年前です。
斉藤健一さんは介護長です。斉藤さんは「トゥイーさんは介護のセンスがある」と話します。施設にはトゥイーさんのほかにもベトナム人の介護者がたくさんいます。仕事について、それぞれの立場から話を聞きました。
名前 | グエン ゴック トゥイーさん |
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勤務先 | 社会福祉法人サン・ビジョン特別養護老人ホーム『グレイスフル塩尻』介護職員 |
出身地 | ベトナム・ハノイ |
年齢 | 26歳(1993年生まれ) |
経歴 | ハノイ医療短期大学看護学科を卒業した後、総合病院の看護師として1年間働く |
入国したときの在留資格 | EPA介護福祉士候補者 |
来日 | 2018年5月 |
名前 | 斉藤健一さん |
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勤務先 | 社会福祉法人サン・ビジョン特別養護老人ホーム『グレイスフル塩尻』介護長 |
出身地 | 長野県諏訪市 |
年齢 | 39歳(1981年生まれ) |
経歴 | 桃山学院大学社会学部社会福祉学科を卒業 |
入社 | 2003年4月 |
トゥイー さん
やることがたくさんあるので大変ですが、慣れてきたら毎日楽しいです。初めの半年間は、先輩と一緒に、少しずつ仕事をしました。利用者さんたちと毎日話していると、気持ちや性格がわかるようになってきました。そうしたら、介護もうまくできるようになってきました。
斉藤 さん
トゥイーさんは、明るくて、利用者さん一人ひとりを大切にしています。利用者さんやそのときの状況にあわせて介護することができます。このあいだは、夕方に利用者さんのひげを剃っていましたよね。あれはなぜですか?
トゥイー さん
肌に薬を塗る必要があったからです。ひげがないほうが薬を塗りやすいです。
斉藤 さん
なるほど。一人ひとりについて「いまはこうしたほうがいい」と気づく力がありますね。
トゥイー さん
「がんばって気づこう」と思わなくても気づくことが多いです。
わたしにとって難しいのは、個別ケアです。利用者さんは一人ひとり体の状態も性格も違います。初めは、手助けしすぎてしまうこともありました。
斉藤 さん
すべて手助けしたほうが、わたしたちは楽かもしれませんね。でも実際には、利用者さんが自分でできそうなことが少しでもあれば、手助けしないで自分でできるようにします。それが介護です。
そのように、一つひとつ考えていくのが、介護のおもしろいところだと思います。
トゥイー さん
そうですね。一人ひとりと話して、相手を知ることが大切だと思います。
斉藤 さん
そのためにはコミュニケーションが大切ですが、みんな「方言が難しい」と言っていますよね。トゥイーさんもわからない言葉がありましたか?
トゥイー さん
利用者さんに「服を着替えますか?」と聞いて「着替えん」と言われたことがあります。わたしには「着替える」と聞こえたので、そのままパジャマを着替えるお手伝いをしようとしました。そうしたら、「着替えんと言ったでしょ」と言われました。先輩に相談したら、長野県の方言では「着替えない」を「着替えん」と言うことを知りました。
わからないときは、わかるまで質問するようにしています。「もう一度お願いします」「紙に書いてください」「ほかの言葉で何と言いますか?」「わたしは外国人でまだ日本語がよくわからないので、教えてください」と言うと、みなさんゆっくり丁寧に教えてくれます。
トゥイー さん
「リフト」や「スライディングボード」など移乗をサポートする福祉用具を使っています。まだベトナムには福祉用具があまりないので、このような技術をぜひ持って帰りたいと思っています。
斉藤 さん
わたしたちは「ノーリフティングポリシー」を大切にしています。ノーリフティングポリシーとは、「抱える」「持ち上げる」のような動作をできるだけ少なくするという考え方です。利用者さんの負担が減りますし、介護者の負担も減ります。そのために、福祉用具を使っています。
また、介護者のセルフケアも大切にしています。
斉藤 さん
わたしたちの施設には、ベトナム人のEPA介護福祉士候補者が14人働いています。1か月に約20時間、彼らが日本語を勉強する時間をつくっています。1か月に4回は日本語教師が授業をします。2年目からは、1か月に1、2回、介護福祉士国家試験のための授業もあります。
2016年に初めてベトナム人を受け入れたときには、何をどうサポートしたらいいのか、わからないことばかりでした。でも、彼らと働いてわかってきたことがあります。それは、彼らは困っていても、「助けてほしい」とあまり言わないということでした。彼らはほかの人に迷惑をかけたくないと思っているからです。そのことがわかったので、彼らが「大丈夫です」と言っても、わたしは別の言葉で質問したり、もう一度質問したりしています。
トゥイー さん
斉藤さんはわたしにいつも「元気ですか?」と聞いてくれますね。わたしが「元気ですよ」と答えても、「本当?」と、何度も聞いてくれます。
斉藤 さん
いまはベトナム人の先輩が後輩を助けてくれるので、わたしが助けることはあまりありません。でも、もし困ったらわたしに「困った」と言える関係にしたいですね。
2019年には、日本人スタッフと一緒にベトナムについての勉強会と食事会をしました。ベトナムと日本の違いを知れば、一緒に働きやすくなると考えました。
トゥイー さん
日本人は仲間がミスをしても「大丈夫」と言って間違いだと言わないことがよくあります。でも、それだと、わたしたちは間違いに気づかないまま、同じ間違いをしてしまいます。だから勉強会で「わたしたちが間違えたことがあったらすぐに教えてください」とお願いしました。
斉藤 さん
文化の違いを知れたのはよかったですね。
トゥイー さん
勉強会の後は、みんな間違いを教えてくれるようになりました。「ゆっくり話してください」ともお願いしたら、コミュニケーションがとりやすくなりました。
トゥイー さん
同じ施設で働くベトナム人と3人でアパートに住んでいます。アパートは会社が用意してくれました。施設までは、自転車で約10分です。
食事は、朝・昼・夜すべて自分でつくっています。施設で食事を頼むこともできますが、わたしは毎日お弁当を持って行きます。ルームメイトも自分でごはんをつくります。でも、2人が休みで1人が仕事の日は、休みの人たちがベトナム料理をつくって、みんなで食べます。料理が上手な人がいます。わたしは片付けをします(笑)。
必要な食材はほとんどスーパーで買えます。ベトナムの調味料や日本ではあまり売っていない鴨の肉などは、ベトナムのオンラインショップでまとめて買っています。不便だと思うことはありませんね。
休みの日は、長野県で一番にぎやかな松本市に行くのが好きです。ショッピングモールで買い物をしたり、松本城のまわりを散歩したりします。電車にも慣れました。
一緒に働いているベトナム人の仲間がたくさんいるので、あまりさびしくないです。
トゥイー さん
まずは、日本語能力試験でN1に合格することです。2年後には、介護福祉士国家試験に合格したいです。その後は、ベトナムに帰って日本の介護の技術を教えたいです。ハノイには、老人ホームは少ししかありません。ベトナムでもこれから高齢者が増えていくので、介護施設が必要になってくると思います。
いまわたしは、利用者のみなさんのことを、自分の家族のように感じています。わたしがちょっと元気がないときには、利用者さんが元気にしてくれることもあります。利用者さんと話すのが楽しくて、疲れを忘れることもあります。
斉藤 さん
外国人介護者を受け入れるようになってから、3年が経ちました。介護者が安心して働けるように、仕事も生活もサポートしていきたいと思っています。
働いている施設
塩尻駅の前にある、13階建ての建物です。建物のなかに、特別養護老人ホーム、グループホーム、デイサービスセンター、認定こども園、一般の人のための住宅などがあります。特別養護老人ホーム(3-9階)は、それぞれの階に約20人の利用者が暮らしています。介護者は8人ずつ働いています。長野県、愛知県、岐阜県にも施設があります。2016年から70人以上のEPA介護福祉士候補者を受け入れています。
Text by Tami Ono
Photo by Natsuki Kuroda
Translation by Shinsuke Hayama, Daigo Murotsu(SLOW COMMUNICATION)