2020.3.25
リアさん(33歳)× ウチュさん(33歳)
ウチュさんとリアさんはEPA介護福祉士候補者です。インドネシアから来ました。初めは別々の施設で働いていました。結婚した後、2016年からは一緒に働いています。2人が働いているのは、千葉県 成田市にある特別養護老人ホーム『杜の家なりた』です。仕事も子育てもしている2人に、日本での生活について聞きました。
名前 | ウチュスヘンドリさん |
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勤務先 | 社会福祉法人福祉楽団特別養護老人ホーム『杜の家なりた』介護福祉士 |
出身地 | インドネシア・西ジャワ州スカブミ |
年齢 | 33歳(1986年生まれ) |
経歴 | シャリフヒダヤトゥッラージャカルタ大学 看護学部を卒業した後、病院で1年間 看護師として働く |
入国したときの在留資格 | EPA介護福祉士候補者 |
来日 | 2012年5月 |
名前 | リアプレスティアアングライニさん |
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勤務先 | 社会福祉法人福祉楽団特別養護老人ホーム『杜の家なりた』介護福祉士 |
出身地 | インドネシア・ジャカルタ |
年齢 | 33歳(1987年生まれ) |
経歴 | スティクスビナワン大学 看護学部を卒業した後、病院で3か月間 看護師として働く |
入国したときの在留資格 | EPA介護福祉士候補者 |
来日 | 2013年12月 |
リア さん
仕事に慣れるまで1年くらいかかりました。利用者さんがごはんのときに口をあけてくれなかったりして、大変だと感じることが多かったです。
いまは、介護は人生をケアすることだと思っています。毎日の生活から看取りまで、一人ひとりを大切にして、その人に必要なケアをします。
利用者さんが口をあけてくれないことには理由があります。だから、無理をしないで、ゆっくり時間をかけることもあります。眠そうなときは、温かいタオルで顔をふいて、目が覚めるようにお手伝いをします。
ウチュ さん
そうですね。利用者さんに無理をさせないことは大切です。
介護は、食事、排泄、入浴などの人間の生活を支える仕事です。そのためには、一人ひとりをよく知ることが必要です。一人ひとりの状態は、朝礼で確認して、介護記録システムでチェックをしています。
このシステムには、利用者さん一人ひとりの介護記録が入っています。パソコンやスマートフォンから、いつでも書いたり見たりできます。体温や血圧などのバイタルサインの記録を見ることができるので、とても便利です。大切な内容には印がついているので、必ずチェックします。SNSのようにコメントを書いて、職員や利用者さんの家族とコミュニケーションを取ることもできますよ。
リア さん
利用者さんの好きなことや嫌いなことの記録もあります。写真やビデオを見ることもできます。言葉では伝わりにくいことも伝えることができるので、いいですね。わたしは、いつも静かな利用者さんがムーンウォークをしてくれたのをビデオに撮ったことがありますよ(笑)。
ウチュ さん
利用者さんの家族は、「会えないときの様子がわかって嬉しい」と言ってくれます。
わたしはリアさんが書いたものに、「いいね」のボタンを押すこともありますよ。
リア さん
施設の隣には保育所があります。わたしたちも娘を預けることができます。
ウチュ さん
保育所の子どもたちは、施設にもよく遊びに来てくれます。わたしたちの娘も来ます。
わたしが担当した利用者さんにも、娘を覚えてくれた人がいました。それまではその人とあまり話すことがなかったのですが、娘を覚えてくれた後は「娘さんは元気?」と聞いてくれるようになりました。子どもの話が、利用者さんとよりよい関係をつくるきっかけになりました。
ウチュ さん
一人ひとりにあわせたケアのためにはすることがたくさんあります。わたしたちの施設には障害がある職員もいます。ボランティアの人も来てくれます。いろいろな人と協力しながら、一緒に働いています。
リア さん
空いた時間には、ケアプランをつくるなど、一人ひとりの利用者さんについて考えることに時間を使っていますね。
リア さん
働く施設を探すときに、ヒジャブ(Hijab)を被って仕事ができることを条件にしました。実際に働いてみて、大変なことは特にありません。
男性の介護もしますが、みなさん高齢なので自分のお父さんみたいな感じです。仕事としてやっていることだから、神様もわかってくれていると思います。
ウチュ さん
家から車で20分くらいの場所にモスクがあって、毎週 金曜日に通っています。モスクが近くにあると、神様が近くにいるように感じます。
リア さん
仕事中もお祈りをします。忙しいときは、落ち着いてから「いまお祈りをしていいですか?」と同僚に聞きます。
ウチュ さん
いつでもお祈りをしていいのですが、タイミングは大事ですね。お祈りをする時間帯は1日5回あります。そのなかで、時間を見つけて、5分くらいお祈りをします。
リア さん
ラマダン(Ramadan)の時期には、太陽が昇ってから沈むまで食べたり飲んだりしません。その時期には、体力を使うので入浴介助はしなくていいと言われます。でも、自分の仕事ですし、大丈夫だと思って入浴介助もしています。みんなは「リアさんが倒れてしまうから、しなくてもいいよ」って(笑)。
ウチュ さん
そうそう、すごく心配してくれますね。
リア さん
ウチュさんとわたしは仕事の時間が違います。娘を保育所に連れて行ったり迎えに行ったりするのは、2人のうち遅番の人がします。お弁当もどちらかがつくります。ウチュさんも料理ができますよ。
ウチュ さん
日本にも、ムスリムが食べられるハラルフード(Halal)を売っているスーパーマーケットがあります。たとえば、最近関東地方で有名な『肉のハナマサ』。近所にあるので便利です。
リア さん
月に2日は休みたい日を選べるので、2人で同じ日に休みを取ります。
休みの日には、娘と公園で遊んだり、『イオン』などのショッピングモールに行ったりします。日本はインドネシアと違って四季があるので、春には桜、秋には紅葉を見に行くなど、季節ごとに観光地へ出かけるのも楽しいです。
ウチュ さん
日本にいるインドネシア人には、いろいろなコミュニティがあります。
たとえば、EPAで来日しているインドネシア人のコミュニティ『IPMI(Ikatan Perawat Muslim Indonesia)』や、『在日インドネシアムスリム協会(KMII)』があります。集まりに参加したり、旅行に行ったりします。
リア さん
IPMIのイベントのときは、200人くらい集まりますよ。LINE・Facebook・Instagramで情報交換をしています。
ただ、近くに両親や親戚がいないので、子どもが病気になったときなどは困ります。子どもを預かってくれる人がいないのは不安ですね。
ウチュ さん
そうですね。でも、夫婦で一緒に暮らしていますし、仕事をなくす心配がないのはいいですよね。リアさんは同じフロアで働いているので、仕事の相談もできます。
リア さん
家でも仕事の話をよくしますよね。楽しいことがあったら、2人で盛り上がることもありますよ(笑)。
結婚して5年になりますが、関係はあまり変わりません。ケンカすることもありますし、嫌な日もありますが、それが家族というものですね。
ウチュ さん
わたしの目標は永住ビザを取ることと、日本で家をもつことです。看護師の資格も日本で取りたいので、まずは日本語検定のN1に合格したいです。
リア さん
わたしは、いつかは両親がいるインドネシアに帰りたいです。再来年にはN1に合格して、通訳者になるのが夢です。インドネシアで土地をもっているので、家も建てたいですね。
インドネシアに帰るときは、いつも「リフレッシュ休暇」という制度を使っています。わたしたちの施設では2年目から毎年12日以上の休暇を取ることができます。
ウチュ さん
いつか家族でメッカ(Makkah)に行くという夢もあります。
リア さん
3歳の娘にイスラム教について、どのように教えるか考えています。娘が初めて話した言葉は、日本語の「嫌だ」でした(笑)。それくらい日本での生活に慣れています。それから、いま2人目の子どもを妊娠しています。
ウチュ さん
日本とインドネシアの両方に家を建てたいのは、子どもたちのためでもあります。もしインドネシアで暮らすことになっても、日本に家があれば、子どもは日本の大学に行きやすくなります。どちらの国でも暮らすことができるようにしてあげたいと思っています。
働いている施設
特別養護老人ホーム(定員100名)、ショートステイ(定員10名)、デイサービスなどを行っています。保育所や、子どものためのデイサービスもあります。障害がある人も働いています。いろいろな人たちが一緒にいる場所です。
Text by Tami Ono
Photo by Isamu Sakamoto
Translation by Shinsuke Hayama, Daigo Murotsu(SLOW COMMUNICATION)